スーパーロボットメーカー 伊藤悠 FZR02073---a---t---nifty.ne.jp


1 概要
2 戦力持ち越しによる分類
3 成長限界による分類
4 展望
5 「スーパーロボットメーカー」
6 付記「サクラ大戦」のSLG部分


1 概要
 複数のマップを順次クリアしていくタイプの戦術級シミュレーションゲーム(以下SLG)を戦力持ち越しの有無、成長の有限無限によって3つに分類します。
(1)戦力持ち越しなし ファミコンウォーズ等 パズルゲームに近い
(2−1)戦力持ち越しあり、成長無限 タクティクスオウガ等 RPGに近い
(2−2)戦力持ち越しあり、成長有限 スーパーロボット大戦等 育成ゲームに近い
 その結果、ユニットの能力値を条件として重視するSLGの可能性が(2−2)の分野に残されていると考えられます。


2 戦力持ち越しによる分類
 SLGにおいて戦力持ち越しの有無は大きな意味を持ちます。
 なお本稿では複数のマップを順次クリアしていくタイプの戦術級SLGを扱い、それ以外のSLG、たとえば光栄の「三国志」シリーズ等は除きます。

(1)戦力持ち越しなし
 戦力持ち越しのない「ファミコンウォーズ」などのSLGでは、純粋にそれぞれのマップの解法が問題になります。
 与えられた戦力をいかに運用し、時に捨て駒としつつマップをクリアするか。ユニットは再生産できるものが多く、またユニット関連のシステムも比較的単純で、ゲームの重点はそれぞれのマップの構成(地形や敵戦力の配置)におかれています。
 こうしたSLGはパズルゲーム(『倉庫番』のようなタイプ。『ぷよぷよ』のような落ち物は除く)に近いといえます。
 このタイプのSLGではそれぞれのマップでのプレイヤーの戦力が決められているため難易度のバランスを正確に調整することができます。
 しかし反面、ユニットが持ち越されないためプレイヤーがそれらに感情移入することができず、物語性を持ち込むことは難しくなります。

(2)戦力持ち越しあり
 「スーパーロボット大戦」シリーズなど、最近のSLGの多くは、ユニットを成長させながら持ち越し、マップを順番にクリアしていくというシステムを採っています。
 こうしたゲームで手塩にかけて育てたユニットはおいそれと捨て駒にできるものではなく、それらが破壊された場合、リセットしてやり直すのが普通です。ユニットがユニークである(代替がきかない)、名前をもっている、といえます。
 装備やクラスチェンジなどといったユニット関連のシステムも精緻複雑で、ゲームの重点もユニットをいかに成長させていくかにあります。
 このタイプのゲームは、持ち越されるユニットを主人公として物語性を導入することができます。プレイヤーがユニットに感情移入しやすいのです。
 物語性のために犠牲になっているのはそれぞれのマップの意義、特にゲーム終盤のマップの意義です。終盤のマップほど、そのマップそのものでどんな戦い方をするかよりも、序盤のマップでユニットをどう育ててきたかが大きな意味をもつようになってしまうのです。そのためゲーム終盤ほど、物語は盛り上がっていくのにゲームバランスは悪くなるという問題があります。


3 成長限界による分類
 こうした持ち越し式のSLGはまた、ユニットの成長に限界があるかどうか、無限に経験値を稼ぐ手段があるかどうかによって2つに分かれます。

(2−1)戦力持ち越しあり、成長無限
 たとえば「タクティクスオウガ」ではマップとマップの間でパーティ内で擬似戦闘を行うことができ、この「トレーニング」によって任意に経験値を得ることができます。またランダムに遭遇戦が起こるため、そこでも経験値を得ることができます。
 RPGは、一定のレベルになるまで先に進めない「モンスターの壁」を幾重にも配置し、同時に戦闘・休息・成長のサイクルを好きなだけ行わせることで順次これを乗り越えさせていくわけですが、成長無限の持ち越し式SLGはこのRPGのシステムに非常に近くなります。RPGの戦闘部分をSLGで置き換えたゲームであるともとれます。
 その意味で、シミュレーションRPGという呼び方がふさわしいジャンルです。
 このタイプのSLGの難易度について語るということは、RPGをパズルゲーム的なSLG(1)を見る目で評価することに相当します。あえてそうした言葉で語るなら、このタイプのゲームは難易度のバランス調整をいわばプレイヤーに任せてしまっているため、バーリ・トゥード(何でもあり)な真剣勝負ができず、プレイヤーは常に手加減をしながら戦うことを強いられます。プレイヤーが能力を全開にするとゲームがそれに耐えられないのです。
 しかし、開発者との知恵比べであるパズル的SLG(1)のそれには及ばぬとはいえ、ある程度のバランスを保つことができることは確かです。
 実際のところ、タクティクスオウガはゲームバランスの制御に非常な成功を収めているといっていいでしょう。トレーニングができ、敵ユニットのレベルは自分が出撃させたユニットのうちの最高レベルのそれに合わせられること。そして、それに加えて敵ユニットにはレベルの上限があること。このシステムは、成長したユニットの持ち越しとそれに伴う多彩な編成と戦術というメリットを考えれば、十分ゲームバランスを保っているといえます。

(2−2)戦力持ち越しあり、成長有限
 一方、最初から決まっている一定回数の戦闘しか発生せず経験値稼ぎの行えない「スーパーロボット大戦」シリーズのようなSLGでは、RPGとのアナロジーは成立しなくなります。
 SLG(1)はプレイヤーの戦力を完全に決めてしまうことで各マップの難易度も完全に決めていました。SLG(2−1)は経験値稼ぎと「モンスターの壁」との2つの要素によって難易度を、いわばプレイヤー自身に調節させていました。
 しかしこのタイプのSLG(2−2)はそうした難易度バランス調整のいずれも行わず(「スーパーロボット大戦」では自軍の全滅によって経験値稼ぎのようなことができますが、無視させてもらいます。これも分類のため、許せ)、単に難易度を低くしています。
 このタイプのSLGはもはやそういった、各マップをいかにクリアするか、という面を放棄してしまっており、重点は完全にユニットの成長にあります。
 それもRPGの成長、根性の続く限り上昇させられる「理論上無限」の成長ではありません。「プリンセスメーカー」など育成ゲームのそれ、限られた資源をどうやって効率よく能力値に変換していくか、という成長です。
 「プリンセスメーカー」シリーズをはじめとする育成ゲームは、限られた一定量の資源を複雑なシステムを通じてキャラクターの能力値に変換していくゲームです。資源は通常、ゲーム内の時間たとえば「10才から18才までの8年間」で、まずこれをアルバイトによって資金に変換し、ついで資金と時間を教育によって能力値に変換し、等々することで最終的な能力値条件を満たすのが目的です。(参考:グレッグ・コスティキャンのゲームデザイン論資源管理
 SLG(2−2)では敵ユニットがこの「限られた資源」にあたります。コンピューターの操作するゲストユニットに敵ユニットを倒されて「俺の敵ユニットを返せ!」と叫ぶプレイヤーを見かけることも多いでしょう。彼等の目に映る敵ユニットは経験値であり資金であって、「マップクリアを妨害する敵」という意味はほぼ失われています。これらのゲームでは、どの敵をどのユニットに倒させるか、ユニット強化用資金をいかに配分するかという点が重要なのです。


4 展望
 4年前「タクティクスオウガ」でハボリムがペトロクラウドをおぼえ(非常に強力な組み合わせで、以後の難易度を大幅に下げる)て以来、「SLGにおける成長の要素」についてうじうじと考えたり考えなかったりしてきたわけですが、現在はこんなところです。
 今回書いていて気づいたのはSLG(2−2)と育成ゲームとの類似です。したがってSLG(2−2)分野にはユニットの能力値条件を採り入れていく余地があるのではないか、「プリンセスメーカー大戦」あるいは「スーパーロボットメーカー」が成立しうるのではないか、と思われます。


5 「スーパーロボットメーカー」
 では「スーパーロボット大戦」をベースに、ユニット成長を焦点とした育成SLGを考えることにしましょう。
 まず第一にユニット能力値によるマルチエンディング。最終的な能力値によって「勇者王誕生」とか「ぼくはここにいてもいいんだ」とか「世界最後の日」とか「MS少女U−GAIM」といったエンディングに分岐するようにします。
 具体的には、まず、クリア時に最もユニットのレベルの高かった参加作品(ガンダムとかダンバインとかマジンガーZなど)がエンディングの主役になります。これは単にクリアするだけで見ることができ、「スーパーロボット大戦」らしい設定に難ありなハッピーエンドで、参加作品の数だけ用意されます。
 そしてこの主役のユニットが特殊な条件を満たしている場合、下記のような特殊エンディングを見ることができます。この特殊エンディングを目指すのがこのゲームの主眼になります。
ジャンル
エンディング(条件)
ガンダム
「アクシズの下の力持ち」(全ユニットの士気が一定以上、全ユニット飛行可能)
エヴァンゲリオン
「学園エヴァ」(エヴァ系キャラの業が非常に低い)
「ぼくはここにいてもいいんだ」(槍を投げたりレイを2人殺したりシンジとアスカを戦闘拒否状態にしたりといった、エヴァンゲリオンのストーリーに沿う様々な条件を満たす)
「気持ち悪い」(シンジにアスカを殺させる、といっても自軍ユニットは攻撃できないので暴走が必要)
「そして、ユイのもとへ行こう」(レイおよび初号機の能力値が非常に高い)
ゲッターロボ
「世界最後の日」(ゲッター系キャラの業が非常に高い、ゲッタードラゴン開発済)
 この特殊エンディングは30通り程度は欲しいところです。また、特殊エンディング発生の条件となる特殊イベントを、100個程度用意すべきでしょう。特殊イベント同士が互いの発生条件になるなど、適当に複雑なシステムを作ります。
 次に、資源を能力値に変換するシステム、プリンセスメーカーのアルバイトや教育に相当するシステムを十分複雑にしなければなりません。
 たとえば敵ユニットから得られるものを経験値と資金だけでなくもっと増やしてはどうでしょう。リアル系ロボットは貯まりやすく、特にエヴァンゲリオンのユニットに貯まりやすい「業」。貯めすぎると戦闘拒否ですが、これがユニットの強化やエンディングの条件になるというわけです。
 あるいは「士気」などというのもいいかもしれません。敵を毎ターン倒しつづけていくと上がっていくのです。いわば「撃破コンボ」システムです。
 さて、育成ゲームは1日という小さな時間単位を繰り返して進行するので育てるにあたって計画が立てやすいのですが、SLGはマップが変わるので予測が立てにくいという問題があります。
 そこでいっそ何回か同じようなマップ同じような敵の出る「何とか編」というのをやってもいいかもしれません。「タクティクスオウガ」の「死者の宮殿」を短くしたようなものです。その場合、マップは狭いものにして、出撃ユニット数を制限するべきでしょう。
 ゲーム全体はこの「何とか編」5つ6つと、その他のイベント的マップいくつかから構成されることになります。


6 付記「サクラ大戦」のSLG部分
 「サクラ大戦」シリーズでは各マップでのプレイが次のマップの戦力に影響しません。あるマップをうまくプレイしても次のマップが有利に始まるわけではないのです。しかしキャラクターは共通しており、物語性も強い。ということはこれは難易度バランスとキャラクター表現を両立した新形式か? と思いきや同作品のマップは全く作り込まれておらずパズル性のかけらもなし。
 これはなぜなのか2時間考えた結論、「サクラ大戦」のSLG部分は戦隊特撮・アニメの視聴者の気分を表現したものとみつけたり。1マスの移動に悩むストイックなパズル的戦闘はマンネリな戦隊特撮・アニメの世界になじまない。甘々な難易度こそ、10分間なんとなくモニターを眺めていれば勝つ、というこれらの世界観を正確に表現しているのです。コンセプトは「なんとなく勝つ」!
2002年5月追記:サクラ大戦の戦闘難易度の劇甘かげんについては意見が変わりました:サクラ大戦の安全弁

 終わった終わった。早くパワードールやらねば。

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