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新刊本を衝動買い。柘植久義という人の「ヒトラー時代のデザイン」という文庫がある。が、内容に切手や葉書のコレクションとして珍しいもの、が多く残念。
「戦時下においては、郵便制度が暫定的に使われるケースがあるため、思いも寄らない大珍品が生じる──略──こうした分野のコレクターにとって垂涎の的となっている」という前置きから始まって、14ページが切手の写真で埋まっていたり。「──現地の郵便制度を速やかに回復するために、在庫のソ連切手に加刷して使用を決めた。けれど在庫が僅少だったことから、極端に少ない珍品ばかりとなる」って、その切手のデザインはソ連でしょうに。他にも身分証明書など、珍しいかもしれないが形式はどうもただの書類に見えるものがいくつか。「──また、野戦病院用タグは極めて珍しい存在と言える」って自慢されても僕にはわかりません。
「ヒトラー時代の品のコレクション」ですわな。
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この本の巻末の解説で、ナチスの宣伝には死をモチーフにしたものが多い、とある。勝ちつづける緒戦のさなかにも、ポスターには負傷兵と戦死とが描かれ、あるいは空より襲いかかる死神……やがて武運も尽きたなら、戦車は鉄の墓となる。
またナチスドイツの建築は、帝国が滅び去ったのちの廃墟にあって最高の美を発揮するものでなくてはならぬ、と、ヒトラーは言ったそうな。
さらに戦争末期にヒトラーは、ドイツ国民が戦いを勝ち抜くことのできないほど弱いのなら、滅びてしまったほうがいいと言い放ったという。
つくづく、格好の良いおっさんだ、ヒトラーは。そしてアニメの悪役をやってるような国だ、ナチスドイツは。前半を新戦術と新兵器で勝ち続け、後半物量に負けてボロボロ。大虐殺と、腐敗と、内部抗争。
ヒトラーはどこそこの連隊に配備されたかれこれの装備などについて事細かに記憶していて、突然そのことを持ち出して幕僚を驚かせたりしたという。外交から生産、ユニットの移動から戦闘時の使用武器選択までを行うコンピュータウォーゲーマーそのものとも言える。全世界のウォーゲーマーに「誰と代わりたい」と聞いたら一致してヒトラーであろう。民主国家の首相だの大統領だの、政治的権力しかなくてやっとれん。スターリンは粛清しまくって民忠(民恐怖)を上げるだけになりそうだし。
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メカのカタログスペックという数字遊びができる点で第2次大戦はコンピュータゲーム向きだ。われわれは車やバイクに乗っているメカ大好き人間だ。
馬を日常で使っていた時代の中国にコンピュータが普及していたら、ゲーマーは「光栄の今度の三国志、黄忠の馬のスピードが87になったぜ」「なんだよそれ。黄忠の馬は孫権の馬から逃げ切ったことがあるじゃん。血統もネヴァーベンドとトウルビヨンなんだから、89で決まりでしょ。それか88でスタミナ92のどっちかしかないね」とか会話しただろうに。
それに、第2次大戦はかなりなガチンコ勝負だった。ファシストを皆殺しにしたるでえ。機関銃は唸り、都市は爆撃された。これが武士階級の名乗りと一騎打ちだの、傭兵隊が互いに有利な陣地に布陣しようと動き回りつつ損害を避け、給金のために決戦までを長引かせたりだのといった古い戦争じゃあ気合が足りませんよ。あるいは、世論が動くまで粘ったり急いだりする近頃の戦争では。
はるか昔、ロボット戦闘ボードゲーム「バトルテック」のTRPG版「メックウォリアー」で、正規のデータを適用すると傭兵部隊はあっというまに破産してしまう、って話を聞いたもんだけど、中世の傭兵隊をモチーフにしてたのかもな。そこに第2次大戦の戦争観を持ち込んだらたしかに、ペイしないだろう。
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われわれアニメファンがガンダムから逃れられないのも、ナチスドイツのやった以上に格好良い戦争がないからなのかもしれない。
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