GameJournal41号OCS紹介記事推考

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 OCS、Operational Combat Seriesの、日本語での紹介記事というのは、長らくGameJournal誌同人版41号掲載のものが唯一でした。この記事は、OCS: Enemy at the Gateをして、ゲームにならないゲームである、と評しています。これを読んで、「OCSは、まあ、やめておくか」と考えたウォーゲーマーが、山ほどいるということはないでしょうが、しかし、日本のウォーゲーム人口自体多くないので、僭越ながらこの記事について書きます。

 評者の吉川正和さんは1994年夏のEatG発売から半年かけてルールを和訳し、1995年5月から4回プレイしました。そして、
★「オーバーランによる波状攻撃〜後方攪乱戦法がドイツ軍側の必勝法となっており、ソ連軍側に有効な対策が無く、ゲームにならないゲームである」
としています。
 EatGはOCSの第二作。シリーズルールはver2.0でした。ですから、ver3.1の今日からして、「当時OCSはそんなゲームだったかもしれない。今はずいぶん改定されて、そういう破綻は無くなったけどね」と言うこともできるでしょう。しかし、僕はそうでもないと考えます(*1)。OCSは当時も機能していたと思います。吉川さんたちは、プレイの順番が不幸だったのだと推測します。

 吉川さんらはシナリオ10のマンシュタインズバックハンドブロー、そしてシナリオ5(か6)のリトルサターンを、それぞれ攻守を入れ換えて、つまり、全部で4戦プレイしています。

 シナリオ10。シナリオ10は、EatG収録シナリオの一番最後です。開始が第27ターンで、EatG自体の最終ターンが第34ターン。僕は失礼ながらこのシナリオを未プレイなのですが、増援表を見ると、それぞれの陣営に歩兵師団が数個、ぽつぽつと来るだけです。なので、セットアップした時点で、展開がこの戦役の史実の通りに、いわば最後の5秒前まで済んでいる状態なのだと思います。
 そうだとするとこれは、ルールとかバージョンとかいった話にはなりません。赤軍の先鋒が延びきっているところへ、カフカスから間に合ったマンシュタインの機甲戦力が勢揃いしている。その瞬間を切り取った初期配置で始める以上、赤軍に有効な防御ができてしまっては、それはおかしいです。赤軍は、ボコボコに切り刻まれるはずです。このシナリオをやるのなら、そこにあるのは、マンシュタインがおさめた戦略的勝利を戦術レベルで確認するという、歴史的興味になるでしょう。シナリオ選択の筋が、やや悪いと言えます。

 では、シナリオ5(か6)、リトルサターンの方について考えてみましょう。まず、オーバーランの強さについての記事の記述を見ます。
★12-2-2の赤軍歩兵二個師団と3-2-2分遣一個連隊の三枚を平地に並べて、「強-弱-強の戦線」
★その8ヘクス先の荒地に、裸の司令部と油
★それに対して、独軍完全充足装甲一個師団と、歩兵一個師団
 これもまた、ルールとかバージョンとかいった問題ではありません。強-弱-強とは、のんきです。弱-弱-弱です。この例の独軍戦力は、平地での装甲戦力2倍も含めれば、アクションレーティング5の8ステップ40戦力になるのです。それに対して赤軍は、AR2の総計5ステップ部隊が、各戦力12, 12, 3と分散配置しているのですから、それはもうどこからでも、潰すも包囲するもお好きにできます。そしてその後ろに裸の司令部と油。これは、確かに、即死します。
 それに続く記述がこうです。
★「戦線の長さに対してユニット数が少なすぎて、どうしてもウィークポイントを晒した戦線にならざるをえない」
★「対応策としては事前に攻撃予想地点に警戒のためのユニットを置くか、突入してきたユニットを(予備モードユニットで)リアクションフェイズにオーバーランするか、この2種類しかない」
 これでわかったように思います。

 ここからが伊藤の推測になりますが、おそらく吉川さんたちの赤軍は、リトルサターン作戦の第一ターン先攻で、攻撃をかけつつ、第一線にべたーっとユニットをつなげている。そしてその線全体を、「守るために攻撃予想地点に警戒のためのユニットを置き、装甲戦力を予備モードで近くに置く」 つまり第一線を守るために第一線に戦力を送っている。紙の戦線を皮の戦線にするために、戦力をどんどん第一線に張り付けている。
 第一ターン表が終わるころには、弱-弱-弱でつらなったユニット群が、独軍装甲師団眼前の平地上に並んでいるという情景です。それと、司令部が油を抱えて裸。したがって第一ターン裏で死にます。納得です。

 もしこうだったとして、それは不運だとも言えるのです。というのは、EatGはOCS連作中でも半端にユニット数があり、一応そうした薄い戦線が引けてしまうからです。もし第三作Tunisiaや第六作Burma、第九作Koreaの初期セットアップを並べたならば、防御側のユニット数がぜんぜん無く、そうした防御が物理的に不可能なので、自然に——あるいはボコボコにされながら——地形の急所を押さえた防御法が学習できるはずなのです。その後ならば、独軍のような機動・打撃力を備えた敵に対しても、そうした防御法によって側面を堅めつつ、攻勢をかけることができるようになります。
 しかし、1994年当時、TunisiaやBurmaはありませんでした。
 そして、吉川さんたちの最初のプレイ経験4回のうち、2回が、シナリオ10であったこと。これも不運です。シナリオ10は、赤軍の延びきった戦線を、マンシュタインが切り刻んで完勝する史実を扱ったシナリオであり、言い換えれば、防御側が抵抗できずに壊滅することを再現するシナリオです。そのため、推測ですが、防御法の学習には、ろくに役立たなかったことでしょう。
 こうした不運が積み重なって、吉川さんたちが、独軍が有利すぎる、という見積りをしたこと、そしてその原因をゲームシステムに遡ったことは、不幸なことだと言えます。あのルールブック2冊を自前で和訳した手間を考えれば、吉川さんたちがEatGを再プレイされなかったのもわからないでないです。ついてない時というのはあるものです。


*1 2006.07.15追記
 「OCSは発表当時、無茶苦茶なゲームバランスだったが、ルール改定を繰り返した結果、安定してきた」という話を聞くことがありますが、それは間違いだと思います。シリーズルールver2.0(EatG)とver3.1とを読み比べてみると、たいした違いはありません。航空機の移動距離の数え方とかです。エラッタにも、大きなものはありません。
 当時あそんでみてすごい展開になった人たちが、今のルールでまたおなじやり方でやれば、またすごい展開になると思われます。
 当時あそんでみてすごい展開になった人たちが、その後、遊び続けて安定してきている人たちを見て、「ルールが安定してきたんだな」と思うのでしょう。が、そうではなくて、遊び続けている人たちのプレイ技術が安定していっているんだと思われます。なにしろ、攻撃も防御もなまなかではない。遊ぶたびに、自分の戦略レベルでの失敗が見つかります。くそ、あのターンにあの渡河点を放棄さえしなければ、いまごろ… 次ははるかにうまくやれる、はるかに、ずっとです。それは間違いありません。

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20060325 アップロード。
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