ホームへ 攻略のヒントへ

エイブアゴーゴー/感想

「章宏くん、章宏くん、起きたまえ」
「はっ。先輩。何すか」
「おめでとう」
「あけましておめでとうです」
「何やってんの、そのプレステ」
「パンツァーフロントです。かなり面白いですよ」
「その話は後だ。エイブアゴーゴーの話をしよう」
「はあ。ずいぶんハマってましたよね。2度やったんでしょう?」
「最初は仲間を1人見落としててね。あれはどこの1人だったのかな。結局わからなかったけれど」
「しかしよくやりますよ」
「でもさ、1度目がメモリーカードのセーブデータによると14時間、まあ実際には20時間くらいだろう。やりなおした2度目が10時間くらい、トータルで30時間。これってRPGとかに比べたら少ないんじゃないの?」
「密度が違いますよ。死んでやり直しってのも、かなりストレスだし」
「死ぬことを特別視しなければいいと思うんだがなあ。死ぬのが当然。デフォルトが死で、生きている方が特例なんだよ」
「どこの哲学です」
「まあ、コントローラーを座布団に叩き付けては拾い、叩き付けては拾って遊ぶゲームだったね」
「忍耐。それって楽しいんですか」
「それがだね、馬場秀和氏のコラムを読んでいて膝を叩いたんだけれど、ゲームって『楽しくてやる』だけじゃなくて、『悔しくてやる』っていうパターンがあるんだよね。馬場氏によると80%の楽しさと20%の悔しさがいい案配だってことだったけれど、エイブアゴーゴーはさしずめ95%の悔しさと5%の楽しさだな」
「うまいことを言いますね」
「前々から僕はマゾゲーマーではないかという疑問が自他から挙げられていたのだが、違ったんだな。僕は『悔しいからやるゲーマー』だったんだよ」
「だからクソゲーばかりやるわけですか?」
「それは違う。『悔しがるゲーム』にもいいゲームと悪いゲームがある。その点、エイブアゴーゴーは優れたゲームだった。セーブポイントの配置はかなりひどいけれど……」
「隠しエリアで仲間を救ったところに置いといてくれればいいのに、無いんですよね」
「おかげで普通のルートの性悪トラップ+隠しエリアの極悪トラップの両方を潜り抜けるまでやり直すはめになる。隠しエリアをやっとクリアしてもさらに一頑張りしなきゃいけなくて、そこでまた死ぬんだよ、これが。スクラバニアの寺の最初なんか、もう何度死んだか。あれはよくないね」
「でも?」
「あとロードをもっとやりやすくしてほしいとか、パスワードもアリにしてほしいとか、エラムに乗って逆走して爆弾死にすると希にハングるとか、それぐらいだね。トータルで非常に優れたゲームだよ。上手いと思ったのがさ、チャントで敵の体を乗っ取れるだろう」
「あのサブマシンガンを持ってる奴ですね」
「素晴らしい。あれはね、『敵に銃を撃たれながら逃げ回りたい』というアクションパズルゲーマーの願望と、『無限マシンガンでミンチの山を築くぜ』というドゥーム系ゲーマーの願望の見事な融合だよ。銃夢の後半で猟奇殺人狂のカメラマンがデッキマンを蜂の巣にして『こりゃあ爽快ッスよ』『調子にのんなァ』ってやりとりをするけど、まさにあれだね」
「鬱屈してるなあ。いじめられっ子の逆襲ですね」
「ゲームスピークシステムもよく生きてる。『助ける』という自分-仲間関係の他にも、『監査され手助けされる』自分-マドカン族の見張関係、『かわいい家畜』自分-エラム関係、そしてやはり『かわいい手下』スリッグ-スロッグ関係。これだよ。『来い』『がるる』『殺れ』『がるる』でスリッグにむしゃぶりついてその死体をむさぼるスロッグのかわいいこといとおしいこと。で、『来い』『がるる』で戻ってきたところをマシンガンで射殺。これがまたなんともいえないね」
「なんだか相当ブラックなゲームのような気がしてきましたが」
「搾取される民族の解放、機械と神秘、屠殺と崇拝、逃亡と帰還、主人公の成長といった骨太なテーマに、一発死にの過酷なアクションによるストレス-カタルシス、肉片大爆散やチャントによるスリッグ・スロッグ『背中から撃たれるってこと』の陰惨なブラックユーモアを重ねた、見事な多層構造。デザイナーは頭がいいね」
「グラフィックやムービーはトップレベルだし?」
「うん。これこそ、一流のゲームだよ。一人でも多くの人がプレイしクリアすることを祈って止まんね」
「了解」
「じゃ、飯でも食いに行かない?」
「その前にちょっと、この面クリアしちゃいたいんですけど……もう一歩なんですよ」


Copyright(c) 1999 ITO Yu All rights reserved.
FZR02073---a---t---nifty.ne.jp