エレベーターに足を踏み入れると、その静けさに一時外の喧噪を忘れることができた。ゆっくりと研究所に下りて行くにつれて、胸騒ぎが高まってゆく。空気中の静電気までも感じとることができるようだ。仕事から離れた何ヵ月かの間に、自分の仕事をじっくりと考え直し、ミスを発見することができたのだ。これを直せば粒子加速実験は上手くいく、レスターはそう確信していた。
研究所の中に入る前に、いらいらする保安装置のチェックが待っていた。すでに実験を始める準備は出来ているのに、こんな些細なことで時間を無駄にしたくはなかった。やっと分厚い扉を通り抜けて、オフィスと呼ぶ実験室に足を踏み入れる。幾層にも重なったノートの束、ジュースの空き缶、ピザの空き箱等が散乱し、彼がこの研究室でずっと過ごしていたことを物語っていた。スイッチを入れると、コンピュータがピッという音とともに生き返った。彼の指はキーボードの上を素早くすべり始め、パスワードを打ち込み、新たな実験に必要な数値を打ち込んでいく。後は実験が始まるのを待つだけだ。もう何百回と繰り返している実験の準備をコンピュータがしている間に、レスターはコーラの缶を手に取り、プルリングを引き上げた。何時間かの後に、コンピュータが結果をはじき出してくれる。その時、自分が正しかったのかどうかが分かるのだ。だが、今夜の嵐はいつもと様相が違っていた。実験の成果を見守っている間も、嵐はすさまじい勢いで吹き荒れている。
稲妻のうねりが冷たい夜気をナイフのように切り裂き、致命的な一撃が研究所を直撃した。レスターは外で何が起こっているのか分からなかった。コンピュータが加速器を作動させているちょうどその時、稲妻が一直線に加速器システム内部に入り込んでしまったのだ。レスターが冷たい飲み物を手に座っている、まさにその時、光が彼めがけて突き進んできた。稲妻が加速器の端を直撃し、壁を突き破り、炎を巻き起こす。炎がレスターの周囲を蛇のように取りまいた。そして、電流が許容量に達すると、まばゆいばかりの爆発が起こった。
レスターがいた場所は、ぽっかりと空いていた‥‥。