機動警察パトレイバー2 the Movie/解説

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管理人
FZR02073---a---t---nifty.ne.jp

「スクランブルの場面は格好いいですね」
「確かに。SIF照合、当該機……何だっけ」
という何気ない会話から始まった作業は当初スクランブル事件の部分だけだったのですが、その後一念発起し全部やることに。所要20時間とかでしょうか。まあ10回見れば同じということで。

 英語や専門用語、太田の怒鳴り声等に分からない部分がかなりありました。ご意見ありましたら是非管理人お教え下さい。


 2000.07.22 takayukiさんからご指摘いただき、冒頭のLOS起動部分を修正。「ロス、オーケー」を「ブート、オーケー」に。「タイプ、エフゼロ、スタンバイ」を「タイプ、XL、スタンバイ」に。ありがとうございました。
 2001.08.29 sasa co,ltdさんからのご指摘により、訓練校での太田の罵声、および自衛隊出動部隊の箇所を修正しました。ありがとうございました。
 2003.01.14 「!」をいくつか修正削除。耳で聞いて確かについている部分でも、文章にしてみると煩かったりするのが面白いところですね。
 2003.04.26 ジャガイモさん(gungriffon.jp)から指摘を受け、「無言の睨み合い」「東京および近県の」「第2小隊指揮車」などを修正。
 2003.06.21 山本さんから指摘を受け、「湾岸のポーク」を「湾岸の工区」へ修正。

 さてこの作業をしていた時に気付いたことを多少。

 まず冒頭、PKOで遭遇戦に陥り壊滅するレイバー小隊。「交戦は許可できない。全力で回避せよ」格好良いですね。隊員にバイザーを被せているので眼が映りませんが、それでなお、あるいはだからこそ表情の感じられる描写。各機体のセンサーを共有して索敵するシステムのようですが、こうした分野の技術は現実ではどうなっているのでしょう。どなたかに縹蓄を語っていただきたいところですが。タイトルが出て川井憲次の曲。
 タイトルとともに野明、遊馬のレイバーのテスト。「ロス、オーケー」ロスというのはLOS、Labor Operating System でしょう。こちらのバイザーは眼が映ります。「状況終了。状況終了」状況という言葉の頻出する本作品、自衛隊の上京、の暗示と考えるのは勘繰り過ぎでしょう(か)。
 「もういいの」面白い台詞を初っ端から出してきます。
 野明と遊馬の現状の説明が済み、次は太田と進士。二人ともそれなりに元気のようです。太田と訓練生の会話は太田に理があると思いますが。この場面の太田の台詞は実に聞き取りにくくて参ります。音量を上げようにも佐久間の台詞が普通の大きさで交ざりますし。
 そしてシゲ、ひろみ、後藤の現状説明です。この3人はツッコミ役を失ったボケというか、「取り残された」感、寂しさを出しています。
 後藤と新人の会話、後藤が笑い出す顔色をうかがってから新人が笑い出す、1テンポ遅れをつけてやるともっとよかったのでは。

 南雲の現状。レイバー隊の現場指揮官として結構活躍している様子です。同時にこの場面は、半端者の番外地だったレイバー隊が組織に組み込まれ成立していく描写でもあります。年を示す「2002」が画面に出ます。技本というのは後で出てくる自衛隊技術研究本部のことでしょう。ところでエレベーターに乗ってくる女の子は何者でしょう。保護者が見当たりません。南雲も男二人も無視しているようだし。
 エレベーターのボタンは左側の列がB2から8階、右側はすべて2桁。中間のフロアでは停まらないようです。南雲、「開」押してあげないのね。
 南雲の車のフロントウィンドウディスプレイは実現可能な技術なのか? 横羽線とは横浜−羽田線か。遠景に3つ並んだクレーンが見えますね。
 ロードランナーが手前に走ってくる場面、左手にあるトラックをまたげるとは思えません。これは絵の嘘というやつでしょう。この機械、風にも弱そうですが。ロードランナーの登場は警察内へのレイバーの普及を、乗員との会話は南雲が「レイバー隊をここまで育て上げた功労者の一人」であるということを、それぞれ記述。
 南雲の後ろの車の人がロードランナーの2台目が通過したあと落ち着く演技が細かい。

 ベイブリッジ爆撃。南雲が空を見上げる、その空からベイブリッジを見下ろす、ベイブリッジに迫る、そして爆発、爆風を直に感じ橋の縱から見上げる人々、車内で爆音を聴いた橋の上の人々、車外へ出るドライバーのざわめきをそのままに南雲の顔へアップ。南雲から出て南雲に帰るカメラワークです。風で髪をなびかせ、それとの対比で南雲の顔が動かないことを見せています。以後南雲の髪の演技も面白い。
 でも南雲の呆然とした顔、車の外から映したときとアップになったときで違う。これワンミスだと思いますがどうでしょう。
 ニュースの言葉遣いがしっかりしていて気持ちいいですね。こんなニュースを聞いてみたい、という願望をかなえてくれます。英語は何を言ってるのか全然わかりません。英語訳のページを見つけて喜んだら「--- {SSN bit in English}」としか書いていないし、畜生。誰か教えて下さい。
 2001年3月1日追記。HALさんよりメールを頂きました。以下伊藤悠によるHALさんからの引用


Reporter:
...explosion or bomb(注1). It(注2) is now eleven a.m(注3), It's been
(注4) six hours since the blast occurred.
And the erea is still gripped atmosphere of utter confusion.
Caster:
At this point we'd like to show you this one shocking scene from a home
video tape.

注1)これは文の最後の部分だと判断しました。つまりこのニュースの場面は途中か
らだったと言う事になります。
注2)isの前に何かあるのはわかるのですが聞き取れません。恐らくItだと思います
が、そうするとisの方を強く発音するのはおかしいのです・・・。
注3)聞いていただいたらわかりますが、ここでははっきりとa.mと言っています。し
かしストーリー、そして何より次の1文からもわかるようにp.mの間違いであると思
われます。
注4)はっきり言ってsixの前は聞き取れません。It's beenは文意からの推測です。
以上で伊藤悠によるHALさんからの引用終わり。HALさん、ありがとうございました。メールの全文はこちらです。
 2002年5月9日追記。Ben Rudiak-Gouldさんよりメールを頂きました。以下伊藤悠によるBenさんからの引用

Hello. Here is the English dialogue from "Patlabor 2", transcribed by a
native speaker (me):

  Male reporter: "...explosion or bombing. It is now eleven a.m. in Japan,
  six hours since the blast occurred, and the area is still gripped in an
  atmosphere of utter confusion."

  Female anchor: "At this point we'd like to show you this one shocking
  scene from a home video tape."

Some parts of this are extremely hard to hear, particularly "in Japan",
but I'm pretty sure I got everything right. (I have the movie on DVD, so
the sound quality is very good.) The first reporter definitely says
"a.m.", even though it obviously should be "p.m.".
以上で伊藤悠によるBenさんからの引用終わり。Benさん、ありがとうございました。in Japanだったのか……
 爆発、事故、爆破事件、爆撃事件と変化していく表現が事態の推移を表現します。自衛隊への疑惑はただ一つのビデオテープに基づいている。探し当てたもう一つの証拠は謎の男によって持ち去られていた。本当に機影はあったのか?

 後藤が主人公としての登場。ここからは主に後藤の視点から映画が進んでいきます。戦力と南雲の確保のために特車2課を訪れる荒川。ビデオのタイマーが18:40。お得意の広角カット。「ここですよここ! この黒い鳥みたいな影!」は様々な場面で引用できる、いわゆる使える台詞です。
 ドライブにでかける一行。「走る車の中にいると」も使える台詞です。散歩その他の移動時に「歩く脚の上にいると」等と利用しましょう。
 小説版(「機動警察パトレイバー TOKYO WAR(押井守、富士見文庫)」)にもありますが、情報を小出しにすることによって主導権を握り会話を支配する荒川。
 降下するジェット機によって視界がホワイトアウトするカット、面白いですね。
 「座席の背にあるファイル」ここは特にそうですが、ドライブの場面を通して目の演技が細かい。

 お待ちかねスクランブル場面。格好良さ爆発。自分はこれを見たかったのだと見てからわかりました。格闘戦どころかミサイルの一発も撃たないのにこれだけ盛り上がれるのは日本の自衛隊ならではなのでしょうか。アメリカの人とかはこの場面をどう見るのでしょう。
 ところが、聞くところによると実際には横文字と日本語が入り混じって使われていて、有事の際などはまず日本語が使われるだろうというのです。日本語英語がリアルだなあと感動していたのに、騙された。
 「南下している、FSを、すぐに引き返させろ」の「、」ひとつひとつに込められた指令のうろたえが素敵です。あまりに怒ると言葉が出てこなくなるように、起こるはずのない不可能事を詰問するにあたって、どんな言葉を言ったらいいのかがわからないのです。
 航空自衛隊のパイロットはバイザーをしていませんね。
 知人は「トレボーとかウィザードとか元ネタがわかりやすすぎる」などと言っていましたが、わかった人は皆そう言う。「攻殻機動隊(士郎正宗、青心社)」の草マンホールがわからなかった輩が何を言うか。

 スクランブル事件が「例の」と表現されるようになるだけの時間が経過した後日。がらがらに空いた水族館で密会する後藤と荒川。柘植と南雲の話の後、語る語る。
 外を遊び歩く旦那に雷炸裂。警備部長とやりあって大変なんだから、奥さんの苦労もわかってくれなきゃ。後藤の姿勢、色使いが寒さを表現。奥さんの勝ち。美術はよく分かりませんが、多分この作品の色彩感覚は凄い。
 自衛隊駐屯地警備につく特車2課。この場面にはかなり小さく長くアナウンスが重なっています。
 後藤のお握りの食べ方を練習中。お茶は「は〜いお茶」。今度は後藤が機動隊とやりあうのですが、テレビ版やビデオ版なら眼鏡は後藤の「それでもやります?」に対して言葉に詰まるところ。後藤の飄々としたキャラクターが一本取るはずの場面です。しかしこの映画ではそういった展開が通用せず、後藤の立場は悪化しています。作品内の現実性が堅く作られている例の一つです。後述。

 これまた見てみたかったテレビの緊急放送。「出来るだけ多くの方に声をかけ」というのがいい。こういうアナウンスを練習して待機してる公務員っているんでしょうね。元第2小隊各員が映るが、ひろみは? 進士の奥さんの演技がよい。遊馬は自宅。太田の場面でアナログ時計の時刻7:50。野明がいるのは篠原重工の寮か、外国の人が多い。
 突如生気にあふれる整備班、そしてシゲ。その中を上京する自衛隊。ここから先は見たかったもので一杯。市中の軍隊をどう映すか、ヘリをどう撮ったら格好良いか。東京タワーが壊れるのを見たかったからガメラを見る、ということですね。音楽も盛り上がりに盛り上がる。
 でも、お握りやパンはもっと目一杯積み上げてから押し込んだ方がいいと思う。あと後藤がシゲの肩を抱くときの2人の動きが不自然。

 だが、兵士を街頭に置いたまま都市の営みは続く。
 ガラスに映るヘリが秀逸。バルカン砲がビルに向けられ、冒頭と同じレイバー、同じバイザーの兵士が子供に手を振る。

 松井再登場。南雲と柘植の関係を承知で「犯罪の陰に女と金」と言っているのでしょうか。
 「何だか分からんが同じものを三つ。凄え金額をアメリカに送金してるよ」三つのものは沢山ありますが、イクストルと考えるべきでしょうか。飛行船内のガスボンベという可能性は薄い。戦闘ヘリというのもありそうですが、イクストルの事だとすれば、この情報がエレベーターを降りてくる3機目の登場の伏線になります。
 車の脇に立つ看板、これは「電話はどこだ!」の場面でもう一度登場しますが、雪のつき方がいい。
 金網を切る動作と音、大きく2回、小さく3回。ディスクを抜くとLEDが点いたり、このあたりも描写が細かいです。
 素人呼ばわりのすえあっという間に捕まる松井。もう少し格好良く潜入シーンを描くことも可能なのだが、プロはそんなに甘くないという展開をさせているわけです。これも作品内の現実性が堅い例。
 この場面の機械の作動音のようなSEの正体は? 無線機とそのノイズか何かでしょうか。わかりません。

 和服の女性は南雲の何でしょう。荒川は親だと言うが南雲は「あの人」と呼んでいるし、微妙な緊張関係があるようです。父の後妻か何かか。電話は転送されているのでしょうか。
 雪、運河、船。静かな場面ながら動きがあって助かります。南雲、瞬きしないな。雪の降る量がおかしいところが1カットだけありました。「女と金」女の線で攻めた荒川も失敗。「意外な人間に人望があるものさ」と言う表情はかわいい。

 ここまで確実にコントロールされてきた色彩が、飛び立つ飛行船の黄色を際立てます。動き出す事態。
 にも関わらず特車2課いじめに精を出す警備部上層。交通機動隊への出動要請は描写されていませんが、南雲は何をしたのでしょうか。本気入っている南雲、とぼける気の後藤。警備部長と南雲の言葉遣いも格好良い。後藤、南雲の剣幕にちょっと驚き。
 石でもぶつけて車を止めたか松井。危ない。
 破壊される第2小隊。2年後の作品、劇場版「攻殻機動隊(原作士郎正宗、監督押井守)」は透過光を抑え砕けていく物体で銃撃を表現していますが、破壊の表現はここですでにできています。透過光はもう不要だったのではないでしょうか。それとも曳光弾って実際にあんなに入っているものなのか。
 あいかわらず格好良い舌戦。後藤の独語はテレビの音量を最大にして聞きました。まだいけると思います。皮肉「志」。「私に手を触れるな!」は十八番。「後藤君。君はどう思うかね」警備部長対南雲の戦い、政治力学的には始める前から前者の勝ちですが、論戦、言葉の戦いの面からみると南雲が押しています。謹慎処分を宣告した時点では、口喧嘩で負けた餓鬼大将が女の子を叩いた状態といえましょう。そこで南雲側の人間である後藤に圧力をかけて南雲を裏切る発言を導き、南雲を雰囲気の上で孤立させようという台詞です。警察組織内の政治生命を考えれば当然その発言が得られるはず。しかし後藤は南雲と共に破滅の道を選びます。そうか、心中ものだったのか。
 「だから、遅過ぎたと言ってるんだ!」から爆発へのつなぎ、もう少し短く。
 交通網、電話網が寸断されていきます。「港、中央、新宿、文京、世田谷。各ブロック不通!」オペレーターが言っている順番で、言っているリズムで変化するモニターの表示はよくない。それと「世田谷」で一旦言葉を止め、他に不通ブロックがないのを確かめてから「各ブロック不通!」と言うべきではないかと思いますが如何に。
 「俺達の勝負は終わっちゃいない」南雲、瞬きしてます。

 「オナガよりツドメ(?)」ですが、ツドメなどという鳥はいないようです。津止という地名はありますが……だからたぶんツバメが正しい。

 再び膠着する状況。「土をほじれば虫もいるし、寒さはビニールハウスで凌げますよね」ひろみ台詞四つ目。
 「つい耳を澄ましちまう」榊の肩をすくめる仕草がいい。柘植の動機を南雲に語る後藤。ますます元気のいいシゲ。「命令も強制もするなだろ。分かってるよ」と言った端から「首に縄付けても引っ張って来るんだ!」等と発破をかける榊。
 ひろみの次が進士。ただでさえ面白いですが、後ろに倒れ込む動きをコマ送りするといい顔してます。またそれを見るシゲの視線が怖くて良。
 太田、そして遊馬と野明。これ登場と逆の順番ですね。「もういいの」の次が「レイバーが好きなだけの女の子でいたくない」ときた。格好良い。
 飛行船の墜落とガス。自衛隊員が犬を見る場面、あの眼のうるみは涙の表現なのでしょうか。だとしたら意味がよくわかりません。
 なぜ、ヘリを爆破するのでしょう。
 「現在第7艦隊が全力で西進中。各地の在日米軍基地も出動準備に入った」聞きたかった! 艦隊や基地が画面に映らないのがまたいい。
 突入準備中の第2小隊。埋め立て地のデータベースはよくできている。「後藤隊長が?」ってどうしてそんな口調なんでしょう。ここで初めて日付、「2/26」および「2/27」が出てきます。しかし残念ながら複数日が経過していると思われる場面がいくつかあるので、この作品のタイムテーブルは作れません。小説版なら可能ですが。コード表については小説を参照

 深夜とはいえ慣れ親しんだ駅にレイバーと自衛隊が映るのはいい感じ。振られる後藤。逮捕される荒川、一瞬見せる驚いた表情が声優の竹中氏に似ている。
 トンネル内の戦闘、ここでイクストルを出してくるところがポイント。普通、というのも変ですがヘルダイバーを出して格闘戦をやらせることもできるでしょう。それをせずにレイバーではバルカン砲に勝てん、というのをやる。堅い。
 手の演技、失恋後藤、やっぱり死なない犯人。ここで差が開き無口王の王冠はひろみに。最後はやはり黄色の鮮やかな飛行船。

 シチュエーション、状況を見せる作品だと思います。どうやって自衛隊を東京に連れてくるかという映画だともいえます。
 その、自衛隊がどうして上京することになるか、という展開自体にどれだけ説得力を持たせられているかはともかく、それを成立させるために作品内の現実性が全般に非常に堅く作られています。作品内の現実性とは、ある作品の中でご都合主義がどこまで許されるかということです。主人公が実は王子様だったという展開が許される作品と許されない作品があるということです。
 この作品で特に堅さが表れるのは、後藤が機動隊の眼鏡にレイバーが故障していると説明する場面、松井が飛行船会社に潜入して捕まる場面、トンネル内でイクストルが登場する場面です。
 作品内の現実性がもっと軟らかく絵空事寄りだったならば、機動隊の眼鏡は言葉に詰まり、松井の潜入はもう少し成功し、イクストルではなくヘルダイバーが登場したでしょう。
 そうした要素を排除し地に足着いた世界観を作ったことで、自衛隊の上京という展開が支えられているのです。
 そうして路上に立たせた軍隊をどう映すか、これも見事です。構図と色彩と動きのレベルの高さ。その中でもヘリは上手い。ヘリをどう撮ったら格好良いかという映画だともいえます。

 そして音楽。格好良いです。それしか言えんのか筆者。
 それに加えて、後藤、荒川、柘植による戦争論、南雲と柘植のメロドラマ、旧第2小隊メンバーによる正義の味方論が記述されます。
 そこに鳥と魚と犬と街。

 以上、つたない感想でした。まとめの言葉が思いつかない。お粗末様です。


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20020509 Benさんからのメールを引用。