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MS WordのDOCファイル版(多少凝っている)

Do not believe Real Polygon Games
リアルって言うな!

パンツァーフロントの通常画面パンツァーフロントの戦術画面

 ときおり、ゲームを誉めて「リアルだ」と言う人がいる。
 甘い。激甘だよナオ太くん。
 リアルはゲームを誉める言葉ではない。そんなの忍法最終奥義と全然違う。

 例えばパンツァーフロント(Fig.1)で考えてみたまえ。PSの戦車ゲームで、ポリゴンで、キャンペーンモードなしに最初から全マップを選べる今時めずらしい女らしいソフト(おお懐かしのカプセル戦記2よ)で、第二次欧州大戦の史実マップが多数収められたいかにもいまにも「戦場の硝煙がにおいさえしそうなリアルなゲーム」などと誉めたくなる作品だ。が、PSソフトとしてかなりリアル寄りにあるこのゲームが、はたしてどれだけリアルなのか。

 まず第一に、このゲームで敵車輌は一定のパターンに従って出現し、襲撃してくる。その一群を倒すことでフラグが立ち次の一群があらわれ、決まったルートを進み迫る。だからプレイヤーは遊び撃ち撃たれリトライするうちにパターンをおぼえ、パターンをつくる。
 しかしリアルと言うなら、実際の戦闘でそんなパターンがわかったはずがないのだ。それどころか安心して行軍しているところに待ち伏せの一撃、という戦闘だってあったはずだ。やられたのはどいつだ? 最後尾? 敵は戦車か、対戦車砲か? どこだ? 撤退か抗戦か?
 こうした判断を一瞬で下し、それがうまくいった中隊長を優れた指揮官と呼んだのだ。こうした状況をリアルに再現するならば、マップも敵編成もランダムに自動生成されねばならぬ。

 あるいは第二。パンツァーフロントではスタートボタンを押して戦術画面に移ることができる(Fig.2)。するとゲーム進行にポーズがかかり、全体マップと、自軍ユニット視界内の敵車輌位置・火点位置を確認でき、指揮下ユニットへの移動ルート指定が行える。
 この機能こそ当時の独装甲師団の、露戦車軍の、米機甲旅団の戦車長がタイガーIIより、JS-2より、航空支援よりも欲しかったものであり、また現在米軍が衛星から何から使って実装しようと努めているものでもある。軍事学最古の問題「あの丘のむこうに何がある」への解答、戦術レベルでのリアルタイムな情報の共有利用である。
 そんなものは当時なかった。

 この2つの巨大な嘘があってこそ、3号戦車J型1輌でもって露軍2個戦車中隊32輌のT-34・KB-1を全滅させるの大功が挙げうるのである。
 そしてそれでこそ戦車ゲームは楽しい。
 マップと敵編成が自動生成され、時には奇襲を受けた状態からミッションが始まり、スタートボタンを押してもポーズもかからずマップも見れず、周囲を見渡そうとハッチを開ければ一定の確率で狙撃されて死んだり手榴弾を投げ入れられて死んだりするゲームは愉快だろうか? 否、否否否。だからわれわれは現実の戦争なんてやっちゃいられないのだ。リスタート機能もないし。

 パンツァーフロントのかなりの部分はリアルである。おっと韻を踏んじまった。しかし仮にパンツァーフロントを構成する要素の92%がリアルだとして、これが93%、94%になればパンツァーフロントがもっとよいゲームになるわけではない。
 よいゲームを構成しているある部分がリアルだったとしたら、それはその部分の現実がたまたまゲーム的だったからだ。現実の中にゲーム的な要素があれば、その部分を切り取ってゲームにすることができる。現実から映画的な要素を切り取って映画にできるように。現実から小説的な部分を書き写して小説を作れるように。だが別に切り取る義理はない。
 ゲーム的な、映画的な、小説的な現実が、あるならあるに越したことはないけれど、なくて構わないのだ。問うべきは現実にその要素が存在しているかではなく、その要素がゲームの、映画の、小説のシステムにはまるかどうかだ。ゲームにはゲームの、獣には獣の、猫には猫の理屈があるのだ。

 学校の教員もTVのシンガーも真実は尊いと言うので、真実という言葉はふかふかして石鹸の匂いがする。ゲームの広告担当も使いたくなろうというもの。パッケージの裏は「hogehogeシステムでリアルなfoo,varを再現」てなコピーで溢れている。
 しかしだがゲームで小理屈を捻り楽しもうというわれわれが、あなたが、そんな香りにだまされていてはぬるい。48000点、30000点、15000点、7000点(親)の2着でツモりハネ満のリーチをかける程度にぬるい。
 ぬるいぬるいと怒るな先生、ぬるい熱いは風呂屋が仕事、大江戸八百八町に煙突かまどの一千六百十六本、喧嘩絶えなば真砂も尽きぬ、芸が立ったか理に走ったか、本日もくだらぬ一席で御座いました。

参考:ざるの会ゲームデザイン入門3-2-2c「リアル」≠「良い」

2001年夏コミ「インタら」に寄稿。
2002年4月22日の日記ウソの中にもホントがあるのさ/Medal of HonorとQuakeに続き。

伊藤悠
20020424 アップロード
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