ゲームにおける成長要素の歴史

 チェスや将棋の時代、ゲームに成長の要素を取り入れることは困難でした。ゲームが保持できる情報量が少なく、その変化を記録することも難しく、またプレイ期間がそれほど長くなかったためです。

 ウォーボードゲームが生まれ複雑精緻なシステムを発展させても、ユニット能力値の多くはせいぜい二桁で、その変化も主に駒の裏表を用いて表現されており、数十時間数百時間プレイされることは稀でした。

 ウォーボードゲームの一形態としてテーブルトークRPGが生まれると状況が変わりました。
 まずゲームの進行がゲームマスタに一任され、1プレイヤが1キャラクタを運用するようになったため、各キャラクタの持ちうる情報量は飛躍的に増え、その変化も管理しうるようになりました(†)。また複数のプレイに同一のキャラクタが用いられることで総プレイ期間も飛躍的に延びました。キャラクタが成長していくことが可能になったのです。
 ゲームがノンゼロサム(†)になって勝敗という要素がほぼ消滅したこともあり、テーブルトークRPGでは成長がゲームの大きな動機となりました。
 長期間にわたるキャラクタの成長はゲームバランスが破綻する危険を生じましたが、ゲームマスタがシナリオ作成権およびゲーム進行権という強大な権力を持つことでそれを防ぎ得たため、テーブルトークRPGの成長システムは非常に複雑になることができました(†)

 他方一人遊びとして発達してきたゲームブックでもプレイヤは単一のキャラクタを運用していたのですが、こちらではプレイヤが同時にゲームの進行をも管理しなければならなかったのでゲームシステムはあまり複雑になることができず、また長期間にわたりキャラクタを成長させつつゲームバランスをとることも困難だった(†)ため、成長システムはそれほど発展しませんでした。

 ゲームの媒体としてコンピュータが登場すると、成長システムはコンピュータRPGの形で大きなユーザ層を開拓しました(†)
 保持しうる情報量の増大によって成長システムはテーブルトークRPG以上に複雑化したのですが、その管理をコンピュータが行うことでプレイヤへの負担はむしろ大幅に下がりました(†)(†)。このためコンピュータゲーム全体が低年齢層に市場を広げていくなか、コンピュータRPGは多くのユーザを獲得することができたのです。

脚注

RPGキャラクタの管理
 キャラクタの能力値や所持アイテムが紙の上に鉛筆で記録されるようになったということ。3桁の能力値も珍しくなくなり、その変化も頻繁になりました。

ノンゼロサム
 ゲーム理論の用語。ゼロサムゲームとはチェス、将棋などのように相手を倒すことを目的とするゲーム。自分と相手の利害が完全に対立すると考えます。自分は相手が最も嫌う選択肢を、相手は自分が最も嫌う選択肢を選ぶことになります(これを称してミニマックス戦略)。
 ノンゼロサムゲームは利害の一致する部分があるゲームで、相手を倒すことが最善とは限らなくなります。例えば山手線ゲーム(別名古今東西)はどちらかというと共通知識を確認することが目的のノンゼロサムゲームであるといえるでしょう。
 テーブルトークRPGではゲームマスタおよびプレイヤの間に明確な対立関係はなく、むしろ利害の一致から協力関係がみられる場合が多く、よってノンゼロサムゲームとみなせます。

ゲームマスタの権力
 テーブルトークRPGについてはその実況を記録したリプレイを読むとよいでしょう。プロによるリプレイは大変愉快なものです。グループSNEなどが多数の作品を出しています。

ゲームブック
 そもそもゲームブックは一般に文庫本であったのであまり長い物語を語ることはできませんでしたが、同一のキャラクタで複数の作品をプレイさせ、成長の要素もとりこんだ作品もありました。例えば「トンネルズ&トロールズ(社会思想社)」シリーズです。そのシステムは肥大し破綻していました。コンピュータRPGの基準からすれば全編これバグと裏技でした。

コンピュータRPGの成功
 ドラゴンクエストやファイナルファンタジーといったコンピュータRPGがコンピュータゲームを、そしてゲームという言葉を代表するほどに一般化したこと。

ゲームのコンピュータによる管理
 コンピュータ以前には、プレイヤはゲームを管理し進行させるため、少なくともある程度はルールを把握していなければなりませんでした。
 成長システムに限らずゲームのほとんどすべての部分の管理がコンピュータに任され、プレイヤがルールを把握していなくともゲームが進行するようになったことは、非常に大きな変革でした。
 コンピュータゲームは初期にはブラックボックス的でした(†)が、共通文法(†)の形成が進むとともにユーザを増やしていきました。

ブラックボックス的ゲーム
 ブラックボックス的なシステム自体の解明を主眼とするゲームもあり、「
ゾーク(インフォコム)」をはじめとするテキストアドベンチャゲームなどはその要素を強く持ちます。

コンピュータゲームの共通文法
 例えば横スクロールアクションゲームならば、画面は水平方向から見たフィールドを表し、画面内に操作できる自分のキャラクタが一つあり、十字キーの左右で左右に移動し、ボタンの一つでジャンプすることができ、基本的に右方向にゴールがあり、下方向に落下しすぎるとミスであり、基本的に自分以外の動くキャラクタは敵で接触するとミスであるが自分が倒した敵や刺激した地形から生じたキャラクタはアイテムであり有益である、などの共通文法があります。
 これによってプレイヤはゲームの進行をコンピュータに委任しながらその挙動を予想することができるようになりました。

コンピュータRPGのゲームバランス
 コンピュータRPGのゲームバランスを成立させているのはやはりその圧倒的な情報量です。
 常時成長していくキャラクタに対してゲームバランスを破綻させないため、コンピュータRPGは何十何百の領域に分かれた広大なフィールドをもち、そこに強さの異なる多数の敵キャラクタを配置しています。各領域は敵キャラクタが強くなっていく順番でつながれていて、プレイヤキャラクタは成長とともにこの順路をたどることになり、同時に物語が進行します(†)
 プレイヤが物語の進行を望めば、プレイヤキャラクタは常にその成長の程度に見合った領域にいることになり、それに見合う敵キャラクタとの戦闘を行うことになります。これによってゲームバランスが保たれます。
 コンピュータという媒体が広大なフィールドとそこに配置される敵キャラクタに大きなメモリを割けるがゆえに、この方法が可能です。つまり、焦土戦略ですね。

戦闘、成長、そして物語の進行
 ちなみに「注文の多い傭兵たち(押井守)」によると、
 「即ち、モンスターとの戦闘によってHP(MP)を消耗しつつEP及びGPを獲得し、その獲得されたGPによってHP(MP)を回復し(宿屋に於ける宿泊効果)、再び戦闘に復帰するという反復行為=2サイクル運動を基本とし、その間に蓄積されたEPを基準として主体の戦闘に対する諸条件を変化させ(レベルアップ)、シナリオの展開をマップ上で規制している「モンスターの壁」に対応させつつ、これに謎解き(実際にはその殆どがアイテム捜し)やNPCとの出会い(情報の入手)等のドラマらしき小イベントを付与し、全体としてゲーム内のキャラクターに感情移入しつつ、あらかじめ制限されたシナリオの範囲内での選択を繰り返し、最終目標として設定されたイベントを完了させて物語としての充足感を得る、この全過程をあらゆる局面で支え実現するシステム、これこそがRPGの本質という訳なんだが…、「物語としてのRPG」の抱える問題はまさにこの点に存在するのだ」

 それほど詳しくもないジャンルについてかなり大雑把なまとめ方をしてしまいましたがお許し下さい。各ジャンル内の個々の作品には様々な違いがあると思います。それらの傾向について書いているということで。

1998.12.5


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