すたっ、ひゅん、ずばん、ぶえー

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「おはようございます」
「やあ。なんだかやつれてるね」
「ええ。レポートで徹夜です」
「御卒業の件で?」
「やばかったんですよ。今日締切。というか尾島先生、仏。ありがとう尾島先生」
「間に合ったんだ」
「ふふふ。やりましたよ! 俺はやった! ああよかった。寒かった。今日もまた生き延びたって感じですか」
「じゃあ今日は体を休めた方がいいかな」
「え? いえ、かまいませんよ。何です? まだカフェインパワーあるし」
「タクティクスオウガの弓と地形とWTシステムについて、前々からひとくさり誉めておかないといけないと思っていたのだが、それをやろうかと」
「誉めておかないといけない?」
「偉そうだって? じゃあ、誉めさせていただかないといけない、とか。なんだそりゃ」
「よろしい。始めてください」
「……」

「大学部4年、」
「ウテナネタ禁止」
「自分で振ったくせに。タクティクスオウガでは、弓を射ったときに矢の描く放物軌道の美しさ・生理的快感、これがまず言える」
「ええ。で、矢が相手に当たったときの音がまたいいんですよね」
「誰の仕事かわからんが(TOとFFTのスタッフリスト)、まったく見事だ。が、それとは別に、弓は戦力として強い。戦闘において、ゲームシステムにおいて重要だ」
「アーチャー強いですよね。ナイトとかの近接攻撃ユニットを活用しようと思ったら、育てる必要がありますからね」
「アーチャーの優位を挙げてみたまえ」
「えーと、タクティクスオウガだと近接攻撃に反撃がありますから。しかも攻撃側有利の修正が特にないから、いわば与えたのと同じだけの、相手が強ければそれ以上の反撃を受けます。だから近接攻撃ユニットは能力値で相手を上回っていないと辛いです」
「うむ。さらにタクティクスオウガでは特徴的なWTシステムを採っているが、その下ではほぼ毎ターン動かないで攻撃を行える点でアーチャーは優位にある。移動せずに攻撃だけをした場合、次の行動までの待ち時間が3/4、75%になるわけだから、ソルジャーなどの近接攻撃ユニットが毎回移動かつ攻撃を行うと仮定すれば、単純に考えて戦力比は4:3となる。これは、アーチャーは防御力の弱い相手を狙える、あるいは戦力を集中しやすい、ということの言い換えでもある」
「なるほど?」
「加えて弓攻撃ユニットはソルジャーに対してだけでなくて、魔法攻撃ユニットつまりウィザードに対しても、防御力と継戦能力の面で、優位にある」
「ええ。ウィザードは柔らかいし、けっこう頻繁にアイテムでMPを補充しないといけませんからね。補充すると、その回は攻撃できないわけだし。そういうふうに言われると、アーチャーって優遇されていますね」
「それは当然そうあるべきなのだ。シミュレーションゲームでは、遠隔攻撃ユニットが強くなくてはいけない。これは一般的に言えることだ」
「強気ですね。なぜです」
「なぜなら、互いのユニットが隣接して毎ターン殴り殴りかえされるのならば、ドラゴンクエスト様の、RPG式の戦闘システムでいいからだ。キャラクターの能力値で勝敗が決まる。戦闘マップがなくていい。戦闘マップがある意味がない」
「ああ、なるほど」
「正直に言うと、これは言い過ぎだ。戦力の集中と地形、戦線というものもあるし……が、まあ、ここではそういうことにしておこう。そしてだね、この強い弓をさらに強く、あるいは弱くするのが、マップの高低差だ。高台だ」
「高台、強いですよね。アーチャーに刃物」
「刃物は近接武器だ。それは僕に、気狂いに高台、と言わせたいのかね。くそ、いちいち気を使うつもりはない。彼らの敵は俺じゃない。高台はおおまかに言って2ステップにつき1パネル弓の射程を伸ばす。逆に低地からの弓攻撃は、極端に届かなくなる」
「第1章最後のバルマムッサの前後編とかね。最初は初期配置で自分が高台だから一方的な戦いができるんだけど、次が自分低地・相手高台でアーチャーが2体とウィザードが1体。きつかったな」
「あそこの2連戦はマップが同じだけに、高台の効果が非常に明瞭だな。接敵するまでに幾度も行われる弓攻撃魔法攻撃、これは第1戦では自分達がCPUのソルジャー相手にやることで、第2戦ではCPUに自分達がやられることだ。マップ作成者の皮肉を感じるのは妄想かしらん」
「さあ? シナリオが、虐殺に加担するか否かという重い決断をさせられるところですから、ゲームの難度の面でも山場にするというのはわかる気がしますが。ちなみにあそこって、ロウルートを選んだときの難易度をカオスルートのそれより下げておいたらよかったと思うんですが、どうです」
「ロウルートの方を楽にしておくということ?」
「あのマップでだけでもね」
「一理あるな。それこそ、ロウを選んだときは敵が低地から出てくる、とかにするといいかもしれん。でだね、話を本筋に戻して、今回の主題を言おう。アーチャーが強いことは2次元マップの存在意義を上げ、2次元マップはアーチャーの存在意義を上げる。アーチャーが強いことはWTシステムの存在意義を上げ、逆にWTシステムはアーチャーを強くする。アーチャーが強いことは高台や低地の、つまり高低差のある3次元マップの存在意義を上げ、同時に高台はアーチャーを非常に強く、低地はアーチャーを非常に弱くする」
「むむ」
「逆に言おうか。ソルジャーが強いことは、2次元マップの存在意義を下げる。ソルジャーが強いことはWTシステムの存在意義を下げる。魔法攻撃ユニットつまりウィザードが強いことは、高低差のあるマップの存在意義を下げる」
「なぜです」
「第1点はさっきも喋ったが、ソルジャーが強ければRPG式の、マップのない戦闘でいい、ということ。第2点、WTシステムだが、誰もが移動して攻撃するようなゲームならWTシステムの意味はあまりない。移動なしに攻撃を行えるアーチャーやあるいは支援魔法ユニットが強くてこそ、WTシステムの存在意義がある」
「ははあ。第3点は」
「第3点、ウィザードの攻撃魔法は高低差を無視する。つまり、高低差がどれだけあっても効果がある、当たる。だからウィザードが強かったら、マップは3次元でなくていいんだよ。平らな2次元マップで構わなくなる」
「ああ、なるほど。そうか、高低差のないSLGでは、弓攻撃ユニットも魔法攻撃ユニットもあまり違いのない、ただの遠距離攻撃ユニットだったりしますからね。いやそういう場合、攻撃の属性と防御ユニットの属性とかで差をつけるのか……」
「その発想は正しいが、ともかく、タクティクスオウガでは弓攻撃とアーチャーを中心に3次元マップ、WTシステムが互いに互いの存在意義を生み出しあっている。双方が相手に意味を持たせている。これはまったく見事な素晴らしい関係で、これぞゲームシステムと言える、かな」
「ゲームシステムと言える、ですか。格好いいでやんの」
「格好よくて悪いか。でも、システムってのはなにかそういう意味なんでしょ。相互参照する、みたいな」
「じゃあエレメントとかアラインメントとかは?」
「それらはスタンドアローン気味で、他の要素とあまり関係がない。直接にはダメージ、たぶん命中率にも、関わっているけれど、弓とWTとマップのような関係にはない。ああ、でも、違う話になるけれど、一般にコンピューターゲームのプレイヤーは乱数に幅があることを嫌うと聞く。TRPGなんかだとダメージ2〜16(8面体2個)にするところをたとえば、ダメージ7〜11にしたほうがいいんだとか。タクティクスオウガでも、攻撃実行前に表示される予想ダメージと実際のダメージとのずれは1桁だよね」
「確かに僕も、予想ダメージが50なら、実際のダメージは25〜75とかじゃなくて40〜60とかがいいですね。たまにはクリティカルが出てほしいけれど」
「クリティカルの発生率にも、プレイヤーに心地いい値というのがあるんだろうな。そこらへんのノウハウはプロに聞いてみたいものだ。それは余談だ。本題、といってもそれもさらに上の本題の余談だけれど、に戻ろう。エレメントはダメージの幅に関する問題を解決するトリックの一部だと言える。プレイヤーにとって、ダメージがどれくらいだか、25なのか75なのかわからないのは嫌だが、どのユニットがどのユニットを攻撃しても毎度いつも50ダメージではつまらん。そこでタクティクスオウガでは、いわば25から75までの乱数をいったん出し、予想ダメージとしてプレイヤーに見せ、そこからもう一度幅の狭い乱数を出して加えて、実際のダメージとするわけだ。ただし、一段目の乱数というのは本当はエレメントや天候だが。このやりかたは論者が議論を結論の手前までで止めて聞き手に結論を出させると納得させやすい、というのにちょっと似てるな」
「えー、と?」
「エレメントとか天候の効果って、プレイヤーはよく知らないし、もし知っていてもそこまで考慮してユニットを移動させ攻撃させることはできないだろう。いや、できる人もいそうだが、できないということにしてくれ。で、そうだとしたら、エレメントだの天候だのといった要素は、乱数みたいなものなのではないかな。しかし、理論上はわかる、計算できるし、予想ダメージとして中間経過も見せてくれるから、プレイヤーは25〜75の幅を嫌がらずに受け入れる。そういうトリックなんじゃないか、ということ。うーんうまく言えん。まず20面体を振って、それから6面体を振って足す、そうすると20面体の出目を見たときに心の準備ができるから、いきなり20面体+6面体を振られたときより出目に納得できる、みたいな」
「よくわかりません。いいや、わかんなくても」
「うん。いいよ。本題、弓とマップとWTに話を戻す。僕がFFT、ファイナルファンタジータクティクスを憎んでいることは知っていると思うが」
「おまけのノベルゲーム以外は嫌いなんでしょう。何ていいましたっけ、ヴィユ」
「ウイユヴェール。あと、音楽とかグラフィックとかは良いと思うよ。問題は後半のストーリー展開と、そしてシステム、さっき言った意味でのゲームシステムだ」
「せっかく父殺しだなんだと熱い話をやっているお兄さんがいるのに、悪魔に変身しちゃうんですからね。悪魔ぁ? なんてこった」
「やっぱり人間相手じゃないとね。前半のテーマは階級と個人といったところか? タクティクスオウガでは民族だったが、これはどうなんだろうな。でもそういうのは言葉にせぬが花か。人に言われてなるほどと思ったんだけれど、チョコボを助けないとゲームオーバーにされたりするのもよくなかった」
「タクティクスオウガで救出マップというと、ハボリムとかか。難しいし助けられなくて死なせてしまっても先に進むから諦めた人もいるでしょうけれど、だからこそ救出できたとき、自分で助けたと言えた。それにくらべてFFTのチョコボは戦闘前に「助ける」「無視する」の2択があって、なおかつどちらでもチョコボが死ぬとゲームオーバーですからね。プレイヤーに尋ねておいて、その答を無視する。侮辱された気がしますね」
「侮辱、ね。君は繊細だな。それでゲームシステムへの文句だが、だいたいさっきタクティクスオウガを褒めたのの逆を言うと思ってもらえればいい。要点は弓が弱いということだ」
「本当に弓が好きなんですね」
「矢の軌道がタクティクスオウガの非現実的放物線でなしに直線に近いから、障害物や仲間に当たって使いづらいし、弓使いの防御力も低い。タクティクスオウガのWTシステムに相当するCTシステムも、チャージという形で行動順から実際の攻撃までのタイムラグが設けられることで、弓使いに不利なものになっている。そしてアビリティシステムも、近接攻撃ユニットと魔法攻撃ユニットを強くするように働いている。どういうことかというと、アビリティシステムによって攻撃手段・防御手段をプレイヤーが選べるようになった。これは近接攻撃においても攻撃側ユニットと防御側ユニットとに非対称性が生じたということで、同レベルのユニット相手にでも近接攻撃をしかける意味ができたわけだ。プレイヤーはCPUよりも賢く、攻撃用・防御用のアビリティを選べるからね。タクティクスオウガではアビリティに相当するものはなかったから、近接攻撃の攻撃側ユニットと防御側ユニットには極端な差はなく、殴れば殴っただけの反撃があったのだが」
「なるほど? 確かにFFTは弓より殴り合いか、魔法ですよね。マップも狭いしな」
「そう、マップの狭さもある。戦闘開始時に彼我の距離がないからすぐ乱戦になってしまって、戦線がつくれないんだな。第一次大戦の塹壕戦と第二次大戦の運動戦みたいなものか? あとユニット数が半分だから、戦力の集中の効果が薄い。雑に言うと、ユニット数が10対10のゲームでうまく戦力を集中してたとえば6対1の状況を作れたとして、ユニット数が5対5のゲームだとそれに相当する状況は3対1だ」
「あんた、タクティクスオウガを自軍ユニット5人でやってるんじゃないんですか」
「そうだな。相手と同レベルの5人より、2レベル下の10人とかの方がいいのやもしれん。それから今君が言った魔法だが、FFTの魔法は、一応、高低差に影響を受ける。が、それはたとえば3レベル以上高低差があると魔法が届かない、という影響だ。つまり高いか低いかは対称なんだ。これが低い方には3パネル差まで届き高い方には1パネル差までしか届かない、などという非対称なものだったなら、3次元マップの高低差が生きてくるのだが……」
「そうではない。魔法には高低差があまり関係ない、その魔法が強いから、高低差のあるマップもあまり意味がなくなってしまう?」
「わけだ。正直、マップをなくしてしまって、5人パーティを前列・中列・後列に配置する、近接攻撃は前列同士、魔法は自分側の列も含めて2列先まで届く、みたいなシステムだったとしても、プレイ感覚はそんなに変わらないんじゃないかな」
「ずいぶん言いますね」
「ちょっと弱気になっておくと、FFTをタクティクスオウガと並べるからそうなるんであって、FFTはFFTでそれでいいんだろう。アビリティシステムなんかは面白いのだろうし。というか、ゲームシステムの要がアビリティの修得になっているんだよ」
「ユニットの育成に重点が移ってるんですよね。タクティクスオウガだと、ユニットを育てるときの選択肢って、ほぼクラスチェンジだけでしたけれど、FFTだとアビリティの修得がすごく幅広いから」
「それまでにユニットをどう育ててきたか、どんなアビリティを取らせてきたかが重要になってしまって、そのマップ自体でどう戦うかという戦術の比重が薄れるんだ。シミュレーションRPG全般が抱える問題だ。そうしてみるとタクティクスオウガの育成に選択肢が少ないこと、つまりアビリティがないことは、ゲームシステムの重心を戦術寄りにしていたんだな」
「比重が薄れる、ねえ。語呂はいいけれど」
「しかしシミュレーションRPGの育成面を楽しむ人達にとっては、それは問題ではなくて、そここそが魅力なのだろう。だから、まあ、いいんだ。FFTのゲームシステムは育成寄りに、タクティクスオウガのゲームシステムは戦術寄りに完成されているんだ」
「すっかり弱まったな。逃げるのか」
「ウテナネタだ、それは」
「はっ」
「まあ、いいんだ。話はこんなところだ。飯食いに行こう」
「ええ。じゃあ竹代行きましょう、竹代。最近牛タタキ丼が旨いんですよ」
「君、元気だな」
「ええ。単位がね。いや助かった。上村さんありがとう。上村さんあっての僕です。上村さんあらずんば……」
「行くぞ、ほら」


更新履歴
2000.12.15 ver1.2 多少考えが改まり、細かい修正。
2000.9.27 ver1.1 バルマムッサ戦について少し追加
2000.2.26 ver1.0


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