5人タクティクスオウガ/思想的背景

「こんにちは、先輩」
「昭宏くん、いいところに来たね。手伝ってくれ。『5人タクティクスオウガ』というページの解説をやるんだ」
「はあ。『5人タクティクスオウガ』?」
「タクティクスオウガというのはスーパーファミコン末期に発売されたシミュレーションRPGの名作のことだ。サターンやプレイステーションにも移植されている」
「『伝説のオウガバトル』の続編でしたね。だいたい知ってますから、細かい紹介は結構ですよ」
「じゃあ、プレイヤーの部隊は30ユニットまで仲間にできるけれど、各マップで出撃できるのはその内の10ユニットまでだということも知っているね?」
「ええ、知っています」
「そこを5ユニットしか出撃させないでプレイした記録が、このページだ。だから『5人タクティクスオウガ』」
「どうしてわざわざそんなことをするんですか?」
「昭宏くん。君はシミュレーションRPGというゲームシステムに問題を感じたことはないかね」
「は? 何ですいきなり、帝位簒奪をもくろむ将軍が部下を試すようなことを」
「シミュレーションRPGってやつは後半だれるんだよ。なぜなら、プレイヤーの使うユニットが成長し、持ち越されていくからだ。ユニットが成長していく以上、序盤のマップでの育て方が重要になる。それを裏返していえば、ゲーム終盤のマップでは、そのマップそのものでの戦術よりも、そのマップまでにどうユニットを育ててきたかが重要になってしまうということなんだ。だから序盤のマップほどプレイヤーの決断一つ一つが重く、終盤のマップほどそれらが軽い。ゲーム終盤、ストーリーの盛り上がりに反してゲームバランスは『負けない・どうでもいい』の興ざめ状態になってしまうんだ」
「各マップのユニットが固定されていて持ち越されない『ファミコンウォーズ』とか『ネクタリス』みたいなSLGでは、そんなことはないし、終盤のマップを難しくしていって盛り上げることもできるんですけれどね。……というような話は昔やりませんでしたか?(スーパーロボットメーカー)」
「うん。ここでは、その議論をさらに発展させる。シミュレーションゲームには元来『このマップをどうやってクリアするか』という、戦術志向の、パズルゲーム(落ちものは除く。『倉庫番』のようなタイプ)に近い姿勢が強かった。そのマップをクリアできる戦術が見つかるまでうんうん唸って悩む、というプレイスタイルだ。正解を発見するまで先に進めない、進行が停滞するゲームだったと言ってもいい」
「行き詰まりながら面を一つ一つクリアしていく、ストイックなゲームだったと。それも前に聞きましたね(コンピューターゲームにおける停滞と比例)」
「しかし行き詰まる・停滞するゲームは、行き詰まってなお唸り悩む気力を持つユーザー、『娯楽がゲームでなければならない人々』でなくては楽しめない。娯楽がゲームでなくてもいい人々は、行き詰まったら映画でもパチンコでも行ってしまう。ゲームが万人の娯楽になるためには、行き詰まらない・比例するゲームが作られなければならなかったし、それが作られることでゲームは万人の娯楽となった」
「行き詰まらないゲームとはRPGだ、なぜならRPGとは戦闘・休息・成長のサイクルを繰り返すことでキャラクターをプレイヤーの投資した時間に比例して強化し、それによって幾重にも連なる『モンスターの壁』を順次越えさせていくゲームだからだ──誰もが投資した時間に比例する成果を得ることができるRPGによって、コンピューターゲームはメジャーな文化になった──」
「そしてシミュレーションゲームが一般ユーザーを獲得するためにRPG寄りに変質したのが、あるいはマンネリに陥ったRPGが戦闘部分にシミュレーションゲームのシステムを取り込んだのが、シミュレーションRPGだというわけだ」
「だから?」
「だからシミュレーションRPGは、パズルゲーム寄りのプレイスタイルとRPG寄りのプレイスタイルとが入り混じって、大きな矛盾をはらんでいるんだよ。その矛盾を放置しておくと、後半だれることになってしまう。それを避けるためには、思い切って自分の手でゲームバランスを取ることだ。自らルールを決め、自分のプレイを縛り、制限するんだ。僕の考えでは──以下僕の好みの話なので他の人もそうでなくてはならないとは言わないが──『ペトロクラウドはほどほどにしておこう』とか、『弓はあまり使わないことにしよう』といった曖昧な基準はよくない。その内側で全力を尽くすためにも、ルールは明確に定めなくてはならないからだ。そのルールが、『5人タクティクスオウガ』」
「やっと『5人タクティクスオウガ』が出ましたか」
「くわしくは本編をみてほしいが、このルールによって、かなりパズルゲーム寄りにすることができたと思う。全力を尽くしても十分難しい、というバランスがとれたつもりだ」
「先輩の全力では、ですけれどね」
「このゲームは敵のユニット数が序盤のマップでは6〜7体と自軍より少なく、後半のマップにいくにつれて10体を超して自軍より多いようになる。経験値獲得のシステムが敵と自軍のレベルが同じくらいになるように作られているので──しかし決して行き詰まることのないように敵のレベルに上限が設けられているのが卒のないところだ──後半戦ほど難しくなるようになっている。実際にはペトロクラウドや召喚魔法をはじめとするプレイヤー側戦力の増長が著しいため、後半戦ほど易しくなってしまっているのだが、このルールならばちゃんと後半難しくなり、盛り上がる」
「それが嬉しいんですか」
「嬉しいね。面白いよ」
「マゾゲーマーですね」
「マゾゲーマーは結構だが、タクティクスオウガは『縛り』とそれによって生まれる厳しさに耐えうる、深く強靭なシステムをもったゲームだよ。難しいことがちゃんと面白いゲームなんだ。圧倒的に不利なマップでも、実はこの手があった、こういう工夫ができた、という発見によって切り抜けられる。そしてそれは、縛らずに圧勝し続けていては見つけられないものなんだ」
「難しいことがちゃんと面白い、ですか」
「ハードモードが面白いゲームはいいゲームだ、とでもいうかな……トートロジーくさいけれど。まあそんなわけで、君もぜひ『そのルールの内側で全力を尽くしてプレイすると面白くなる』絶妙のルールを探し、それに従ってプレイしてみてくれたまえ。ありがとう。さようなら」
「ええ。おやすみなさい」


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