SLGにおける雑魚ユニット


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 さよならだけが人生だ。ということは、こんにちはだけが人生だ。ということだ。人は生まれる時は母と一緒であり、また死ぬ時にはあらゆる死者と一緒になるのだから。だからさみしくなんかない。さあ皆さんご一緒に。

 こんにちは。

 シミュレーションゲーム、以下SLG、やってますか。本日はSLGにおける雑魚ユニットについて一席。
 雑魚ユニットとはいつでもどこでも即時に安価にいくらでも投入できるユニットのことです。
 例えば「ガチャポン戦士2カプセル戦記」におけるザクなどは典型的な雑魚ユニットです。このゲームにはユニット生産のための技術開発や基地・都市のグレードアップといったシステムがないので、予算さえあればザクに限らず全ユニットをいつでもどこでも生産することができます。ザクは生産に要する期間1ターン、費用100GP、相当な雑魚です。残念なことにこのゲームでは一つの基地で一度に1ユニットしか生産できないので、いくらでもとはいえませんが、その雑魚っぷりには異論のないところです。
 また「コマンドアンドコンカー」におけるミニガンナーも非常な雑魚です。バラックという生産施設が必要ですが、生産に1秒もかからず、100ユニット程度は楽につくれますし、安価です。
 雑魚ユニットの逆は代替のきかないユニット、ユニークなユニットです。「スーパーロボット大戦」におけるプレイヤー側ユニットなどはその典型で、イベントを通じてしか入手できなかったり、大量生産不能だったり、成長したり強化できたりといった要素で一杯です。
 一般的にシミュレーションRPGのプレイヤー側ユニットはユニーク、特に成長という要素によってユニークになっています。

 さて、SLGにおける成長の意味を考えるのは別稿にゆずって、雑魚ユニットの存在するSLGに話を限ります。
 雑魚ユニットはどうでもいいユニットであるがゆえに重要です。
 敵の攻勢を弱める緩衝材に、主力ユニットの退路の確保に、敵主力の注意を逸らす囮に、強さのわからない敵への切り込み役に、偵察に、お子様のおやつに、ビールのおつまみに、安価で使い捨てのきく雑魚ユニットは欠かせません。


 具体的に、まず「ガチャポン戦士2カプセル戦記」を例にとって、守るに際して敵戦力の集中を防ぎ、攻めるにあたって退路を確保するという、2つの働きをみてみましょう。
 このゲームでは主力ユニットが高価、ダメージの回復は容易、よって戦闘においては主力ユニットが破壊されるか否かが特に重要になります(†)

図1

αβ____γ__δ
αβ…………自分の主力ユニット
ザ……………自分の雑魚ユニット
γδ…………敵の主力ユニット

 便宜上1次元で考えます。ユニットの移動力をいずれも7、つまりこの1次元のマップの端から端まで行けるとします。ただしこのゲームでは同一のマスに入ることで戦闘を行い、また戦闘後の移動はできないため、相手のユニットのいるマスを通り抜けることはできません。

(1)敵のターンだった場合、敵は1ユニットをザと戦わせて破壊するために使わなくてはなりません。γとδ、2つの主力ユニットを同時にβにぶつけることができないのです。

(2)逆にこれが自分のターンだった場合、自分はαβ2つの主力ユニットを同時にγにぶつけることができます。
(2−1)1度目の戦闘で相手に大ダメージを与えつつ辛勝されてしまった場合にも、2機目のユニットでとどめをさしにいくことができます。敵のターンだった場合と対照的です。
(2−2)1度目の戦闘で大ダメージを与えられつつ辛勝した場合には、ザを右へ4マス動かしてδに対する壁とすることができます。次ターンδはザと戦闘してこれを一蹴するでしょうが、そこで敵の行動は終わり自分のターンになりますから、傷ついた主力ユニットはとどめをさされることなく退却することができます。これもまた、敵のターンだった場合と対照的です。

 雑魚ユニット1機、主力ユニット間の空地1マスの有無が大きな戦略的優劣をうむのです。


 CPU側の目をくらます囮としての雑魚ユニットの例は、「機動戦士ガンダム ギレンの野望(†)」に求めることにしましょう。
 このゲームではついに、ついにボールを生産することができます(†)
 前面投影面積が大きいうえに手足の関節がいかにも脆そうなガンダム世界の一般モビルスーツに比して、被弾径始に優れた球状の装甲、姿勢制御に利用できかつ無駄に大きくないマニュピレータ、本体に直接装備されていて取り回しの容易な武装。正直言ってボールにガンダムの装甲とビームライフルを装備させ、アムロを乗せれば無敵ではないでしょうか(†)。ボール万歳! ボール最強! 機動戦士Zボール!
 「ギレンの野望」では一つの生産拠点で同時に多数のユニットを生産でき、また総ユニット数制限もかなり緩いので、安価で生産期間の短いボールは常時大量につくることができます。さらにボールは6ユニットまでスタック(†)可能ですので、かなりの数のボールを前線で運用することができます(†)
 「ギレンの野望」の戦闘では基本的に攻撃をしかけた側が有利で(†)、大きなダメージを与えることができます。またアムロやシャアといった強力なエースパイロットが存在するため、CPU側がどのユニットを攻撃してくるかという問題は重要です。
 そこでボールの出番です。いざ両軍激突の瞬間、6ユニット1スタックで運用してきたボールを一斉に分散させます。
 「散!」
 6つのマスをそれぞれ1ユニットで占めたボール(†)。CPUの主力ユニット群はこのボール達に攻撃をかけてきます。かけらも余さず全滅、しかしそのおかげでプレイヤー側の主力ユニットは無傷です。自分のターンにそうした無傷の主力ユニットでCPU主力に攻撃をかけつつ、また再びボールを敵攻撃範囲に展開します。こうして毎ターン敵にボールを破壊させる一方自分の主力で敵主力を攻撃し、ボールが尽きる頃までに主力ユニット数差で優位にたつことができます。
 CPUのシャアがボール相手に「性能が違うのだよ、性能が!」などと見栄をきるのをみていると、歪んだ喜びを感じることしきりです。

 雑魚ユニットの強さ、気高さをおわかりいただけたでしょうか。
 ユニットは存在することで意味をもつのではありません。雑魚ユニットの意味はいかに破壊されるか、その壊され方にあります(†)。生産から破壊に至る過程に意味があるのです。雑魚ユニットはそれを教えてくれた。さらば、雑魚ユニット。永遠に壊され続け、壊れるがゆえに再生産されうる、あるいはそれはわれわれ生物の姿なのか……


脚注

主力ユニットが破壊されるか否か
 いくら大きなダメージを与えても、とどめがさせずに相手のターンになって逃げ出されてしまっては意味がありません。HP144同士が戦って相手に140ダメージ与えたが自分は破壊された、そこで相手のターンになった、などというのは最悪です。相手はすぐさま撤退し、最寄りの都市なり基地なりでHPを回復させてしまうでしょう。数ターンで戦線復帰が可能です。
 よしんばそうやって撤退させることによって都市を一つか二つ奪取することができたとしても、都市による収入は1都市1ターンあたり150GP、それに対してHP144のユニットの生産コストは3000〜4000GP。ユニットを後方の生産基地から前線に再投入するのにかかる時間も痛く、引き合いません。

ボール
 ガンダムのSLGでボールが登場するのはこれが最初だと思うのですが、違いましたっけ?
 【ガチャポン戦記4での登場が最初ではないか、との意見を頂きました。提供はPhorkさん】

ギレンの野望
 1998年セガサターンで発売されたバンダイの戦略級SLG。ESP、CRI、創通エージェンシー、サンライズ。

ボールのデザイン
 ボールのデザインはNASAによるものです。土星有人飛行計画の際に製造され、このとき、発見的プログラミングをされたアルゴリズム的コンピュータによって、無重力空間における対人質量兵器として使用されました。
 欲を言えば機体正面中央のカメラ用の穴は被弾時危険なので装甲でふさぎたいところです。または射撃時の姿勢制御のために主砲をここに設置し、砲軸を重心にあわせるべきでしょうか。

スタック
 同じマスに複数のユニットが存在できること。ユニットが重なっている状態。
 「ギレンの野望」では一般のMSユニットは3ユニットまで、ボールは6ユニットまでスタックできる。

運用
 一般に雑魚ユニットは移動力に欠け、にもかかわらず数を要求されるので、前線での運用に困ることが多々あります。すでに主力ユニットがひしめいている場所に雑魚ユニットが入るマスがない、あるいはユニットが詰まりすぎていて陣形の変更もままならない等々。
 その点「ギレンの野望」はスタックがかなり自由なので、雑魚ユニットの活躍の機会を非常に増しています。

戦闘
 「ガチャポン戦士」と違って「ギレンの野望」では自分のユニットと敵のユニットとが同じマスに入ることはなく、戦闘は異なるマスの間で行われユニットによって攻撃可能範囲が決まっているという一般的なシステムとなっています。

6つのマス
 実際には、無理に散開せずスタックしたままでも、囮として十分有効です。
 ちなみにこうした戦法が通用するのは、このゲームのCPUが弱いユニットを優先して狙う「弱いものいじめ」ロジックをもっているからです。弱いユニットを狙えば攻撃の効果が高くなるとは限りません。戦闘において攻撃側が有利なゲームでは特にそうです。
 程度の差はあれ「弱いものいじめ」はSLGにおいては一般的なアルゴリズムですが、破壊寸前のユニットに対する攻撃を避ける卑屈なゲームも存在します。

壊され方
 「死ぬこととみつけたり」ですか。やはり戦争ゲームは「お前は捨て駒だ。そこで死ね」と言いながら遊びたいものです(†)

戦争ゲーム
 筆者は現在の世界において戦争は問題を解決する手段としてはきわめて効率の悪い選択であると考えています。また、現在の世界において各国は軍備を縮小していくべきであり、またそれは可能であるという意見をもっています。日本の平和憲法は実行可能であり、在日米軍および自衛隊は順次なくしていくべきだと思います。かつ、虐殺戦争ゲームが大好きです。戦争と軍隊をディスプレイとBB弾の中で楽しみ、現実のそれに反対するということです。
 余談ながら第2次大戦において日本軍は東南アジアの人々を性的奴隷にしたし、それは批判されるべきだと思います。

以下余白。脚注部分後半を見やすくするため。




















































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